4-25-2000(Tue.)

休日のおとうさんへ

 GWを目前にして、キャンプをおねだりされているおとうさま方。「何をしたらいいのだろう」と頭を悩ませている方に、キャンプの乗り切り方をお教えしましょう。よって、今回は長いじょ。


 まず古今東西アウトドアのお料理は、おとうさんの仕事と相場が決まってます。なぜに外の料理はおとうさん?とお思いのみなさま。良いところに気付きました。キャンプ雑誌の編集をしている友達に、みなさんからお寄せ頂いた体験キャンプのご感想を見せてもらいました。

 それによりますと、キャンプの料理は男の仕事だと思っている主婦が、ものすごい割合で含まれています。理由はもちろん「出掛けたときくらい家事から開放されたい」にほかなりません。「何言ってるの、昼間ゴロゴロしてるのに」などと揚げ足をとってはいけません。主婦に有給休暇や勤務時間はないのです。お料理の上手・下手よりも、目先が変わることが大切なのですから、ここは気持ち良くおだてに乗ってあげましょう。

 ちとせち辛いなと思ったのは、おとうさんが腕を奮って作った料理を美味しいと思っているか?という質問のお答え。殆どの方々がおとうさんに気を遣われて「思っています」と答えていましたが、注釈を読むと「思わなくてはバチがあたる」「やってくれるだけで大感謝」というご意見が圧倒的多数。あの・・・、つまりホントは絶品なワケではないのですね。この辺の気の遣いっぷりが逆に、今どきの主婦は舌が肥えていて生半可な料理では「すっごく美味しい」と思わないところが浮き彫りになってますね。

 ま、いくら腕に自信があっても毎日3食作っている方々と、たまの休日、それも使い込んだご自宅のキッチンではなく、火の回りや勝手も違うアウトドア用のグッズでは、昼下がりに奥様方がグルメなさっているお店の味にはならないであろう事も、容易に想像できます。正直な方は「羽根を伸ばしたい一心で褒めちぎる」とまで書いていて、おとうさんの喜ぶ顔を考えるとなんだか泣けてきます。


 お子さん方にいたっては、もっと正直です。「お母さんの料理のほうが美味しい」という意見も多数。これはもちろん「食べ慣れた味」ということも大きく作用しているでしょうけど、お料理というものは作り慣れていないものはどこか味がバラバラで、突然凝ったことをしたときは1回目は味が馴染んでいないのが普通です。う〜む、子供もゼータクになっているから、おとうさんも大変ですね。ここまででお先真っ暗になったおとうさん。今日はおとうさんを打ちのめすコラムではないのです。ちゃんと一筋の光があります。

 不評の原因は、お母さんやリストランテの味に対抗するからです。いわゆる由緒正しい「男の料理」を実戦なさった方は、概ね好評です。つまり「料理なんて出来ないものね」と開き直って、釣った魚を川原の石で囲った焚火で焼いただけ、地面に穴を掘ってヤキイモを作っただけという方々のほうが、お子さんやお母さま方には大好評でした。好評だった理由は、こちらのほうがよりキャンプらしくて良いということなのでしょう。良かったとおっしゃった方々が「おとうさんと一緒に遊べたから」「お母さんが出来ない(やらないという意味でしょうね)ことをやったから」というのは、大きく納得。

 ちなみにリストランテを目指したおとうさんへの酷評は、「片付けが大変」「気疲れした」「待ち時間が長い」などでした。一緒に遊んでくれると思ってお出掛けしたのに、ずっとおとうさんが料理にかかりきりだと、お母さま方もたいそう気疲れするようです。このあたりが「やってくれるのは嬉しいけど・・・」の、「けど」の先を物語っているような気がしますね。まぁ料理の基本は「おもてなし」ですから、自宅のキッチンと違って手順や仕込みが丸見えなアウトドアの料理では、「手間がかかる」「時間がかかる」はご法度なのでしょう。やはりお外でご飯を作るときはシンプルでアウトドアならではのもの、凝ったものを作りたいときは自宅でと、状況判断がハマったシェフのほうがより尊敬されています。これはすごく分かる気がします。




 そして、最後の難関。それでも「キャンプ場だろうが川原だろうが、リストランテの味が食べたい」とおっしゃる、グルメな奥様をお持ちのみなさま。どこへ移動しようとも一流シェフの味でないと許さんっ、このわたくしがなんで川魚の串焼きにかぶりつかなきゃいけないのよ〜っ、というノリになりそうな場合は、腹を据えて一流シェフの味に挑戦してください。場違いだろうがなんだろうが、いいんです。目指すは一流シェフのシンプル料理。ポイントさえ押さえれば、ゴーインに奥様を焚火の炎でススだらけにするよりも、格段に評価が上がるハズです。

 ホントは手の関節だけで水加減が調整できて、鍋や飯盒でご飯が炊けちゃうおとうさんのほうが一気に尊敬されることは請け合いですが、そ〜ゆ〜方は別にこの時期頭は痛くないでしょうから、ここから先はにわかシェフを目指すおとうさんへのエールです。かようにキャンプでご飯が炊けると尊敬を集めるものですが、玉砕率も高いのでやったことがない人は、いきなり挑戦するのは避けましょう。


 また、乾くと美味しくなくなるものは避けたほうが無難です。メインディッシュは魚を丸ごと蒸し焼き+香草とか、乾きにくいものが良いのですが、どうしてもお肉のゴージャスなメンディッシュが欲しいという方は、ミートローフに挑戦してください。挽肉料理は、塊肉よりは水分が飛んでも美味しく頂けます。スライスするのは、食べる直前か食べながら。もしくはヨーロッパ式に食べ初めと同時に、おとうさんが勿体つけて各自にサーブしてください。ここでヨーロッパのエスプリに浸りたい方は、あくまでもお肉とワインのサーブは男性のお仕事です。

 間違ってもお母さんにお酌の催促などしてはいけません。目指すはエスプリただ1点ですから、奥様は大衆酒場のお酌係ではなく、ひたすら男性がエスコートする存在です。よって狩の獲物はおとうさんのステイタス。多少不細工に切れてしまってもい〜んです。家族の尊敬を勝ち取るには、労力を惜しんではいけません。


 サラダは多少面倒でも、ゴージャスなお食事には必需品。ドレッシング作りが難儀な方は、市販のフレンチドレッシングをオリーブオイルとレモン汁で薄めるだけでも、かなり本格的な味になります。撹拌は少し手間でも、真っ白にクリーミーになるまで頑張ってください。サラダの中身は凝る必要はありません。メインがゴージャスなら、生食出来るほうれんそう、またはスライスしたトマトだけとか、サラダ菜だけでもいいんです。無理にシーザース・サラダなどに挑戦して疲れ果ててしまっては、せっかくのお食事タイムが台無し。要は気分なんですから、リストランテの盛り付けらしく「ちょび」でもいいのです。

 それすら面倒な方は、プチトマトを並べるだけでも大丈夫。ソースは市販のマヨネーズをレモン汁で倍の量に薄める、これだけでおっけ〜です。あとは適当にお皿のフチに切ったバケットを添えるなり、テーブルクロスの上に直にクーペを置いてみるなり、ご自分が一番「リストランテらしい」と思った演出で乗り切りましょう。ワインのセレクトに自信がなかったら、もしくは奥様があまりアルコールをお好みでない場合は、キンキンに冷やした「おいしい水」にレモンを1〜2滴。グラスは面倒でも、ガラス製のものが良いですね。雑貨屋さんで売っている、フランス製の1コ¥120くらいのグラスですと、お値段の割に「割れにくい」「雰囲気が良い」「テーブルクロスに映える」のお便利品ですので、事前にギンガムチェックの布地と共にこっそり揃えておきましょう。

 優雅なお食事のポイントは、あくまでも「仕込みは手早く・食事はゆったり」です。正しい日本男児ほどこのバランスが逆転しますので、日頃の雄々しさはここでは忘れて、あまり気負わずドレッシングなんかは、食事の途中で混ぜるくらいでもいいでしょう。ええ、あくまでも真っ白になるまで。軽く振り塩をした野菜に、お食事中にレモンを絞りながらかけるのも、南ヨーロッパっぽくていいですね。




 おとうさんに大人気の中華は冷めるとグッと味が落ちますので、キャンプでは避けたほうがいいんですが、ゲスト(ここでは奥様とお子さんですね)が首を揃えて待ち構えている状態なら、挑戦してもいいかもしれません。その場合も、あんかけは極力避けましょう。残ると悲惨です。

 で、炒めもの。一番失敗するのが火加減です。炒めものの基本は「強火で手早く」ですが、アウトドア用品のように火力が強いのに火が均一に回りにくいお道具だと、部分的に上焦げします。これを回避するには、弱火で少し長めに調理すること。もしくは厚目の鉄板があれば、1枚下に敷くだけで火の通りがまろやかに行き渡ります。火が通りにくいものは、サッと湯通ししておくこと。お作りになる場合は、「1回に2人前まで」。これが基本中の基本。どんなに高級食材を用意しても1回に作る分量が多すぎると、うまみの回りが鈍くなって味が一気に落ちますのでご用心ください。

 そしてもう1工夫したいおとうさんは、野菜の切り方を変えてみてください。「どうせ腹に入れば一緒」などと言わずに、色鮮やかな野菜、たとえば人参とかピーマンなどですね。これらをいつものようにブツ切りや輪切りにしないで、大きめの二等辺三角形に切るようにしてみてください。

 もちろん味が変わるわけではありませんが、目先を変えることによって単調に見えがちな炒めものを「さすがだっ」と思わせるプロのワザです。ご家族が気が付けばこっちのものですが、気付いた方にはインパクトのあるワザだけに、たて続けに使うと効果が半減します。万が一カットの効果に気付かれなくても、そのときは次の機会にも使えるワザですので、聞かれもしないうんちくを先にとうとうと語ってしまって、次回「また、これぇ」などと言われないようお気を付けください。家族の評価はお世辞もない変わりに、遠慮というものもありません。




 また奥様方に大人気のパスタに挑戦される方。こちらも茹で加減次第で、味が格段に変わります。まず100gのパスタに対して2Lのお水。塩は15g以上入れる必要はありません。いっぱい入れてもいいですけど、これはパスタに下味を付けるためのものではなく、沸点を上げるために入れるものです。そう、高校生の時に習った「モル沸点上昇」というヤツですね。なんで15g以上入れる必要がないかは、計算できる方にやってもらってみてください。

 大人数だとその割合で入る鍋がないぞ、とお思いのあなた。良いところに気が付きました。美味しいパスタにも基本の人数があります。それは、ソースもパスタも1度に3人前まで。プロでもこれ以上の量は1度に作りません。茹でちゃからめ茹でちゃからめが流れるように出来る方も、「1度に3人前まで」だけは押さえてください。さて塩水が沸騰したらパスタを茹でるわけですが、ここでのポイントは「最初の2分はまんべんなくかき回す」ということ。つまりパスタの外側のグルテンが臨界点まで水分を吸い尽くす間、かき回し続けるわけです。

 くっつかなくなったら、同時にソースの準備です。ソースとパスタは、どちらが先に出来過ぎても美味しくありません。手早く作る自信がない方は、パスタ用のお湯を沸かしている段階でソースにかかり初めてください。逆にソースの仕上がりが早くなりすぎる恐れのある場合は、6割方出来たところで一旦火から下ろします。火を止めるだけでは余熱でどんどん味が変わりますから、必ず火から下ろすことを忘れずに。特にトマトソースにチャレンジされる方は、火を入れ過ぎると味が半分死んでしまいますので、煮立て過ぎにも気を付けてください。

 出来ればパスタを入れる前のお湯で「トマトの湯剥き」などしてみたいところですが、面倒であれば缶詰のカットトマトでも大丈夫です。その場合は、ホントに煮立つか煮立たないか程度で火を止めます。したがって、パスタが茹であがる1〜2分前からかかるくらいで、ちょうどいいかも知れません。スライスしたニンニクを使う場合は、あらかじめお湯で戻しておくと、炒めたときに焦げた味が回って失敗することがなくなります。


 パスタを失敗する原因は、なんといっても断トツで「茹で過ぎ」。これは袋に書かれている時間をキッチリ守って、時計とにらめっこされる方に多いです。茹で加減は目安時間の八分目くらい。10分と書かれていたら8分、7分と書かれていたら4分くらいで、パスタ1本を指で取って握りつぶすように固さを確認します。麺の1/3くらい芯が残った状態で湯切り。ソースをからめているうちに、余熱で絶妙なアルデンテになります。これでオーマイだろうが¥100セールで買ったド太いパスタだろうが、漫然と茹でたディ・チェコよりずっと美味しくなります。

 くれぐれも、ソースの塩加減は仕上がりの七分程度に押さえましょう。ここで茹で汁を全部捨てないように気を付けてください。パスタと合わせている最中に「ちょっと固いかな」と思ったら、パスタの茹で汁を少しずつ足しながら味を整えます。ここでジャストの味に整えられれば良いですが、ソースに自信がない方にも究極の裏ワザがあります。ここまで注意深く読まれた方は、もうお気付きでしょう。


 市販のソースは大体塩分がキツすぎて、保存にはいいですが高級感にはやや欠けます。缶詰のソースをベースにする場合でも若干塩を甘目に仕上げると、多少ツメの甘いソースでも高級感がグッと出ますので、お試しあれ。間違えて茹で汁を全部捨ててしまった場合は、お水を差すと温度が下がってパスタがくっつきますから、ポットのお湯を少しずつ差してください。そう、あらかじめお湯は沸かしておくのだよ。




 せっかく絶妙なタイミングで料理が出来ても、一緒に出すお茶が遅くなっては感動も半減。お茶を入れるときは茶葉を入れる前にサッとお湯を入れて、ティーポットをあらかじめ暖めておくこともお忘れなく。これだけ完璧に押さえれば、まずは及第点がもらえることは保証します。さて、「そうは言っても、いきなり全部は覚えられないぞぉ」とおっしゃるおとうさま。ちゃんと救済措置は施してあります。

 上記のワザは取材中にお聞きしたシェフの基本、または素人が一番失敗するポイントです。太字のところだけ覚えれば、ちゃんと上手く出来るようになってます。

 それでも手慣れてなくて、失敗しそうな予感にさいなまれているあなた。だいじょびです。男の料理は「うんちく」です。ポイントはそのまま、あなたを料理の達人に仕立て上げます。「厚目の鉄板があればなぁ」とか「ちょっと茹で汁を足し過ぎてしょっぱかったかな」「手を抜いて1度に沢山炒め過ぎたね」「1回に3人前は基本だったな」などとつぶやけば、失敗作も尊敬の産物に早変わり。

 たとえ手が遅れて上焦げしただけでも、単に塩加減を間違えただけでもい〜んです。じつわ細かい数字を間違えてつぶやいてしまっても、おっけ〜おっけ〜っ。一流にこだわる人は、うんちくに弱いんです。そして数字を記憶する趣味はないのが「やってもらいたい人」の特徴ですから、ここでは細かい数字チェックが飛んでくる恐れはありません。言い訳は堂々とし過ぎても、モジモジし過ぎてもいけません。きわめて当たり前の口調で滑らかに話すと、より一層尊敬を勝ち取ることが出来るでしょう。健闘を祈るっ。


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