2-18-2005(Fri.)

続・スパイの世界

 去年の暮れに、AMラジオ局のFEN(Far East Network:極東放送)がAFN(American Forces Network:米軍放送)という名称に変わって久しいという話題を耳にしました。米軍放送は1997年10月の大幅な組織改変にともなって、カリフォルニアの本局より衛星放送で世界各地の米軍施設に同時配信できるようになったため、名称を「AFN」に統一したとのことです。あのステーションコールは、もう聴けなくなってしまったんだなぁと思うと同時に、ふと不思議な混信のことを思い出しました。


 FENを聴き始めたのは、小学校の3〜4年生くらいのときだったと思います。目で見た初めての外国体験が、祖父母の家のお隣の米軍将校宅や、子供の頃住んでいた家の近くの英連邦墓地だとしたら、耳で聞いた外国はラジオから流れてきたFENでした。わたくし小学校に上がった頃から目覚まし時計や電話を分解しちゃったり、機械いじりの真似事はけっこうやらかしておりまして、プラモデル感覚で組み立てた一石のちびっちゃいトランジスタ・ラジオは、心ゆくまでいじくり倒しておっけーなおもちゃでもありました。

 学校ではアマチュア無線や海外短波の受信が流行っていて、小中学生が「おうちで外国気分」を味わうにはラジオの改造が手っ取り早かったんだと思います。もっともその頃のラジカセはデフォルトで短波のチューナーがついていたし、改造と言っても最初はアルミホイル・チューンするくらいなんですが。

 「This is the Air Forces Radio」というコールが、何度聴いても「ディスイズ・イアンフォーシィス・レイディオ」に聞こえてしまった頃のお話です。殆どのラジオ局は午前0時の時報と共にステーションコールを流していましたが、FENのステーションコールはなぜか午前0時丁度ではなくて、0時5分頃だったと思います。パターンもいくつかあって、「This is the Far East Network TOKIO」か前述の「This is the Air Forces Radio」に加えて、短い音楽入りのものと言葉だけのものがあったように記憶しています。

 それが終るといきなり韓国語みたいなものが混信する時間帯があって、「今にして思えば、あれは北朝鮮の暗号だったのかもしれないなぁ」と先日ボソッと口走ったことを思い出し、試しにその筋に詳しいサイトで調べてみたら。








ホントに北朝鮮の乱数放送でした。




 自分で言っておきながら、我ながら軽く驚きました。妙な混信状態は10分〜15分ほどで終わり、その後何事もなかったかのようにまたFENが受信できるのですが、かなり出力が高いのか、この時間帯は思いっきりFENがかき消されます。混信は1局ではなく、ロシア語放送みたいなものが混じっていることもありましたが、720kHz付近でもたまに聞けました。ガリガリと雑音が酷いので「困ったときのNHK」を探してテキトーにバンドを移動すると、さっきの続きの妙な放送が入る場所があったんです。

 当時はどこかの試験放送か何かだと思ってました。ただその口調や抑揚が独特で、昨今の拉致事件やら工作員のお話なんて夢にも思わなかった頃から、子供心にも「フツーの放送ではない」ということくらいは分かったものです。

 しかしいくら乱数放送だからといって、こんなにカンタンに傍受できる怪電波を、当時から怪しんだ人はいなかったのでしょか。わたくしとて、昨今の拉致問題や再現ドラマみたいなもので存在を知らなければ、あの妙な放送が日本に潜入したスパイへの激励や指令になっていたとは、思いもよりませんでした。でもですね、日本にだって朝鮮語が分かる人はいくらでもいるでしょう。まずその電文形式が不自然すぎです。いわく「これより0000号電文をお送りします。組数00組、組数00組。本文を読み上げます」の後、乱数の朗読が始まるそう。








怪しい、怪しすぎます。




思いっきり「疑ってくれろ」と言わんばかりの電文です。




 しかも世間が寝静まった夜更けに、1人のっそり起きだしてラジオに耳を傾け何かを走り書きする。昨年あたり放映されていた再現ドラマでは、そんな工作員の不審な行動が描かれていましたが、今の時代とギャップがあるとすれば、70年代日本の善良な市民は0:05くらいを「未明」とか「超深夜」と受け止めていたことくらいでしょうか。

 星新一さんかなにかの短編小説で、「スパイなんて映画の世界ほど華やかでもなければ、『R何号、X地点で合流せよ』な〜んてウサン臭い暗号なんぞ使うわけがない」との趣旨をのたまう主人公に深くうなずき、映画レザボアドッグの「Mr.PINK」だの「Mr.Orange」なんてコードネームは、不自然すぎて余計目立つぞぉと思ったわたくしも、これにはビックリ。


 スパイとは「命を奪わなくても世間に存在を知らしめることで抹殺できる」、とは誰が言ったお言葉だったか。映画や小説よりも遥かにウサン臭いことを実際にやっていたとは、同時代に体験していたときは、思いも寄らなかった出来事でした。


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倶楽部冗談

とうがらし@倶楽部冗談






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