だから嫁には行ってない

　ひょんなことから、あるカートコースでは「放し飼いは結婚してることになってるらしい」と小耳に挟んだ。なんでそんな会話になったのか前後は忘れてしまったけど、唐突に人から「結婚してるんでしょ？」と言われたのでした。よくぞわたくしにそんなことを聞いたものだと、相手のご無事を祈られたあなたっ。だいじょびだ、お聞ききになった方はもっとコワイから・・・って、そ～ゆ～話がしたかったワケではなくてぇ。

　日本人は「結婚してる？」と聞きますよね。とゆ～かそういう会話をすること自体、どういう状況だよ？と思ってしまいますが、アメリカでの妙な会話を思い出してしまったのでした。ときは今から10年ほど前。ハリウッド・ブルバードの東の外れにある、オモチャ屋さんへお出掛けしたときのこと。ちょうどクリスマス・シーズンだったので、プレゼント用のオモチャがわんさかセールをしている。私が欲しかったのは、スクリブルといって小さな木製のタイルをマス目に並べて、英単語を作るパズルのようなもの。

　対象年齢は５～９歳くらいなのだけど、作った単語の長さや縦横斜めのマス目にいくつも引っ掛けて、同時に数個の単語を作れると一気に点数が加算される、大人でも十分楽しめる定番のゲームなのでした。日本で言ったら、オセロやポケット将棋盤くらい古典的なゲームなのかな。小さなオモチャ屋さんでも、どこにでも売ってるようなものなのです。で、それはあるかと訊ねたら「結婚してるの？」と聞かれたのですね。別にセクシャルな意味ではなくて、私も日本人の通例に漏れず海外へ行くと子供扱いされるクチなので、店主はなんでそんなものが必要なのかと不思議だったらしい。

　「英語の勉強がしたくてね」と答えると「十分しゃべってるぢゃん」と、なお不思議そうな顔をする。こりわ私の英語が流暢なワケではなく、アメリカという国は英語で生活しているみなさんがお住まいなのかと思ったら、特に大都市ではそうでもないのです。在米20数年にして全く英語を話さない人もいれば、英語が通じない店番も珍しくなかったりする。それで生活できてしまうコロニーがそこかしこに点在してるから、カタコトの中学生英語でも英語らしきもので話し掛けてきた人間は、全て「英語を話す人間」にカウントされてしまう。で、子供のおもちゃと思っているものを、アメリカではハイティーンくらいに見えるヤツが買いに来たので、「一番いらない年代だろ～に」と思ったのでしょう。

　ハイティーンにしか見えないと言っておきながら、主婦かもしれないと思っちゃうあたりが、さすがはアメリカ。だがしかし。こんなことで驚いてはいけない。なんで「結婚したことある？」って聞き方なのだぁ。「No, never」と答えると「んぢゃ、子供いるの？」って、おいっ。結婚したことはないと言っとるだろうがぁ。まぁ、託児施設のある高校もあったりするくらいだから、かような質問をフツーにしてしまうあたりが、アメリカの懐の広さを物語っております。

　そしてこのオモチャ屋さんのおぢさんは、お隣りのガンショップのオーナーもやっている。おいおい、街中でガンのセールかいな。「今なら実弾100発付きで、たったの99ドル99セント！」って、なんだかゾッとするなぁ。物珍しさもあってウィンドウを眺めていると、さきほどのオーナーが今度はこっちのドアからニコニコ登場。数分前に意図せずこちらの情報を提供してしまったので、「いらっしゃい、ミス。銃をお探しですか？」などとお愛想も言ってくる。あれ？またこの人だ・・・。よく見るとこの２軒は奥で繋がっていて、１軒の店を間仕切りして無理矢理細長い店２軒にしているのですね。オモチャ屋さんとガンショップのオーナーが同じ人というのもスゴイ取り合わせだけど、「プレゼントですか？」って質問もやめて欲しいじょ。

　「いやぁ、私は旅行者だし、こんなもん持って帰れないですよ」とへらへら断わったのに、商人魂はそんなことではビクともせず。「ライフルは審査に２週間くらいかかるけど、ピストルならすぐに持って帰れますよ」って、そ～ぢゃないっ。「ほら、これなんか掌にスッポリ入って軽いから、女性でもラクラク操作できますよ」とニコニコ薦めるおぢさんを見ていたら、もしかしたらアメリカ人のメンタリティーと私のメンタリティーは違うのかな・・・そりともこのおぢさんが私の常識とは違った価値観で生きているのかな・・・などと色々思いを巡らせたけど、おぢさんの常識を疑うよりも、「猟銃には審査が必要」で「対人用の銃は無審査」というほうが、どう考えてもおかしいよね。今では結婚してるかどうかなんて、お客や面接に来た応募者に質問したら、そっこーでセクハラ訴訟を起こされてしまうそうですが、なんとも極端なお国柄が懐かしく感じられる出来事でした。

　ちなみに「結婚してるんでしょ？」と言われたのは初めてではないし、どう考えても結婚してなさそうな年齢のときは、「彼氏いるんでしょ？」と断定的に言われていたので、間違えた方もど～ぞお気になさらずに。なんでそう見えるのか何度か理由も聞いたことあるけど、良いのか悪いのかはよく分かりません。

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