7-18-2001(Wed.)

マシンよ、あれがピットだよ

「翼よ、あれがパリの灯だ」って、じつわリンドバーグ大佐のお言葉ではないのであった。

 ご本人が口にしたという記録もないし、手記にも一言も出てこない。原題は「The Sprit of St.Louis」だし、これはこれで、また感動ものの所以があったりする。前者が本屋さんで「お客に手に取る気にさせる題名」だとしたら、後者は「読者にじわっと感動を与える題名」だと思う。翻訳モノはタイトルの付け方からして、とてもセンスを要求されるものだけど、これは原題・邦題とも甲乙つけがたい名タイトルだと思う。この人の生涯がまた、庶民のあこがれと空想を思いっきり満たしてくれる人生なんである。この人には、人を羨む時間などなかったのだろうな・・・という清々しさを憶える、時々読み返してしまう本である。

 奥様がまた素晴らしい女性で、ご自身も飛行家で大佐と夫唱婦随の生涯を送られるのだが、とても素敵な感性をお持ちの方で、日本へ不時着したときに「さようなら」という言葉の意味を知って、「なんとはかなく美しい、諦めのよい言葉なのでしょう」と書き記している。去りゆく人に追いすがるわけでもなく、神の御名において再会を固く誓い合うわけでもなく、「それでは、これにてお暇いたします」「さようなら、お名残惜しいですが致し方ないことですね」・・・なんだか、胸がきゅんとしてしまう。ご夫婦で日本に滞在したときの様子は、奥様がご自身の手記に書かれているのだが、これが忘れかけていた奥ゆかしくも美しい、日本のはかなげな伝統を思い起こさせてくれて、感情は爆発させるより押し殺してしまう前世紀の魂を持った放し飼いは、思わずうっとりしてしまうのである。

 人を羨むことは卑しいこと、それはきっと己の可能性が信じられなくなったとき・・・と漠然と考えていた私でも、このご夫婦には素直に感動して羨ましく思い、夫婦の理想像にもなっている。それを支える周りの友人もまた素晴らしいのだが、「金は出すけど口は出さない」という理想のスポンサーも、すべてが皆「カッコイイ大人」であり、英雄でもあったりする。私には英雄願望のようなものはあまりないのだけど、1人の力ではどうにもならないことがあったとき、「英雄だって1人の力では生まれないのだから」と気持ちを切り替えるために、たまに読みたくなる本でもある。

 飛行機乗りというのは、なぜか手放しで魅かれてしまう。フライングエースの書いた本は、まるで自分は当事者ではなくフィルムでも見ながら書いたような、現実をどこか1歩引いた視点で書いているモノが多いけど、郵便飛行士の書く文章はとても情緒的で、幻想的なものが多い。どちらも好きな感性だけど、郵便飛行士のみなさまが、押し並べて月明かりのフライトがお好きなのも、何度も読み返したくなる理由のような気がする。晩年は風光明媚な田舎で過ごされる方も多く、私の夢に近いものがある。

悲観も楽観もしない。そのために今自分が出来ることをやるのみ。

 今の心境にとてもしっくりくる名言なので、つい引っ張り出して読んでしまった。今日のタイトルは、カート体験2度目のときの参戦記に書いた言葉だけど、明日からの2〜3週間で何度かそう思うんだろうな。


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