アメリカの世論を嘆く友達へ

　アメリカの戦争には毎日気をもんで大変だと思います。私は旅先でちろっと会っただけのアメリカ人しか知らないですが、全てのアメリカ人が好戦的とは思ってないし、少なくとも日本で言われているよりは、ずっと保守的な人々だと思っています。日本の外交は少々特殊で、政権が転覆しても実際に政治をやっているのは官僚だし、諸外国との顔つなぎは皇室がやってくれるので、現政権がひっくり返る恐怖を感じている人はあまりいないように思いますが、アメリカは官僚政治でもないし、王室もないし、日本の首相なんかより大統領の役割がずっと重みのある存在なんだと思います。

　もっとも影の大統領がいたり、企業との癒着でおかしな方向へ行ってしまうのは残念ながらどこの国にも見られる政治腐敗ですが、ブッシュ政権の支持率もまた戦時下の操作されたデータだと私は見ています。どういういきさつで国連無視という行動を取ったのか、連日ニュースを追っていてもさっぱり分からないし、「国民のみなさんにはそのつど説明して理解してもらっている」という小泉首相の一方的な言い分に諦めている人はいても、納得している日本人が多いとはとても思えません。アメリカでもテロや泥沼化する戦争に怯え、「今この政権が転覆したらもっと酷いことになるかもしれない」と考える善良な市民は、積極的に反対意見をとなえないというだけで全て「賛成票」にカウントされ、「みんなが賛成したから」という論法で押し切られているような気はします。

　今のアメリカ大統領はまるで子供向けのヒーロー番組に出てくる悪役そのもので、目的は「世界制服」だし、やってることは利権のためなら人殺しも辞さない、経済活性という名の一大無駄遣いと兵器の在庫一掃セール。赤字が出たら、日本の税金で補填される保険特約まで付いています。ブッシュ大統領が「大量殺戮兵器が危険な独裁者の手に渡らないように」と連呼する度に、ＴＶカメラには鏡でも貼ってあるのかと思ってしまいます。こうしたキリスト教的博愛主義の歪んだ解釈で、頼まれてもいない国へ「解放」という名目で自分の思想と都合を押し付けに行くのは、本当におかしなことだと思います。

　日本が世界一良い国だとは言わないし、日本はアメリカの属国であり独立なんてしていなかったんだと、失望している人もかなり多いです。今、日本国民の最大の関心は、アメリカにそっぽを向いて果たして本当に独立が維持できるのか？ということに尽きると思います。特に昨年暮れからは北朝鮮の脅威が表沙汰になってしまったので、先日の国会党首会談でも、日本の防衛事情について現状説明を促す答弁が盛んに行われていましたが、残念ながら今の日本にそのような力はないとの返答でした。

　アメリカの自然や出会った人達はとても好きですが、次々に渡航する友達を尻目に私が海外移住しなかったのは、欧米の政治を信用していなかったことが最大の原因です。国連というのは地球外の公平無比な機関なんかではなく、本部を置く国と発足させた国々のご都合主義で展開が変わってしまう茶番だとも思っていました。それでも無いよりはマシで、いやしくも公開された場で話し合いの形を取る以上、そんなに破廉恥なことは仕出かさないだろうという淡い期待もありました。でも今その国連が有名無実と化してしまって、「博士の異常な愛情」を地で行く核と生物兵器の超大国アメリカを誰も止められないことは、とても残念です。

　こうした経緯はアメリカの有権者だけの責任ではなく、選挙にも行かず小泉内閣に失望している人にも、責任の一端はあると思います。

　納税者のみなさんは自分の血税を外国への言い掛りに使われて、なぜもっと怒りをあらわにしない？という思いは、日本においても同じです。今は日本にとっても厳しい時期で、呑気な島国ニッポンも終戦以来、初めて外国の脅威を実感することになったと思います。私もこんなことでもなければ、諸外国との関係なんて深く考えなかったでしょうし、遅まきながら60年代～70年代に吹き荒れた安保闘争の意味が、やっと分かってきたように思います。そう考えたらただ嘆くだけでなく、日本はまだ政治的に未熟な国で、アメリカの庇護の元にぬくぬくしていられた平和についても、１人１人が考え直す良い機会だったのではないかと、無理矢理にでも前向きに受け止めるようにしています。そうでないと、やってられないですしね。

　すでにアメリカで生活の基盤を築いてしまった友人達に、今更私から「みんな、なんでそんな国へ移住してしまったの？」と言える立場ではないですが、今回の愚かな戦争が撒き散らした荒んだ空気や、殺気立つ人々に巻き込まれたりしないよう、どうか懐かしい友人が誰１人傷付きませんように、遠い祖国からお祈りしています。

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